太陽光発電所の運用において、サイバーセキュリティはもはや一部の大規模事業者だけの課題ではありません。遠隔監視や出力制御、EMS(エネルギー・マネジメント・システム)や蓄電池の導入が進むにつれ、発電設備は常時ネットワークに接続される存在となり、通信を起点としたリスクは確実に増えています。
一方で、過度に恐れる必要はなく、リスクの特性を正しく理解し、基本的な対策を講じることで多くは抑制可能です。そこで本記事では、太陽光発電所のオーナーやアセットマネージャーの方に向けて、サイバーリスクの全体像と、実務として押さえるべき基本的な考え方・対策ポイントを分かりやすく解説します。
目次
なぜ今、太陽光発電でサイバーセキュリティが注目されるのか
再生可能エネルギーの主力電源化が進む中、太陽光発電所を取り巻くリスクは、自然災害や設備故障だけではなくなっています。近年は、遠隔監視や制御の高度化により、太陽光発電設備がネットワークに常時接続されるケースが増え、サイバーセキュリティの重要性が急速に高まっています。
発電所の停止や出力制御が事業収益に直結する以上、サイバーリスクは資産価値・運用安定性に関わる経営課題として捉える必要があるのです。
1-1. 太陽光発電機器は “ネットにつながるパソコン” のようなもの
PCS(パワーコンディショナー)や遠隔監視装置、通信ルーターなど、太陽光発電所の主要機器は、現在ではソフトウェアによって制御されています。これらは一見すると産業機器ですが、実態としてはネットワークに接続されたコンピューター端末と同様の性質を持っています。
そのため、脆弱な設定や古いソフトウェアを放置していると、外部からの不正アクセスの対象となり得ます。特に、インターネット経由で状態確認や制御を行っている場合、意図せず攻撃経路を開いてしまっているケースも少なからず存在します。
1-2. 分散型電源の拡大と監視装置の脆弱性
太陽光発電は分散型電源として全国に広く設置されています。この特性はエネルギーの安定供給に寄与する一方で、管理対象が増え、セキュリティ統制が難しくなるという側面も持ちます。
特に問題になりやすいのが、発電所ごとに異なるメーカーの監視装置や通信機器が導入され、設定や更新が十分に管理されていないケースです。こうした環境では、一部の脆弱な機器が全体のリスクを高める可能性があります。
太陽光発電所に影響するサイバーリスク
太陽光発電所におけるサイバーリスクは、情報漏えいや企業イメージの問題にとどまりません。
発電設備の運用や売電に直結する点が、この分野特有の重要なポイントです。ここでは、実務上押さえておくべき代表的なリスクを整理します。
2-1. 発電停止や売電損失につながるリスク
多くの太陽光発電所では、遠隔監視システムを通じて発電状況や設備の異常を把握しています。この遠隔監視がサイバー攻撃や通信障害によって停止すると、異常の発見が遅れ、結果として発電停止や復旧遅延につながる恐れがあります。
例えば、PCSの不具合や通信断が発生しても即座に気づけなければ、発電停止状態が長時間放置され、売電機会の損失が拡大します。直接的に「ハッキングで発電が止められる」ケースは多くありませんが、監視ができない状態そのものが運用リスクになる点は見落とされがちです。
2-2. 通信機器の乗っ取りによる不正利用のリスク
太陽光発電所の通信機器が、第三者によるサイバー攻撃の踏み台として悪用されるリスクも現実的な課題です。
実際に、経済産業省が公表する資料においても太陽光発電設備向けの遠隔監視機器が攻撃を受け、機器の脆弱性を突かれて不正送金など別の犯罪行為に利用された事例が報告されています。このケースでは、発電出力を制御する機能は持たない機器であったため、系統への直接的な影響はなかったとされています。
ただ重要なのは、「発電所に直接影響が出なければ問題ない」とは言い切れない点です。脆弱性が指摘されていた機器を更新せずに運用していたこと、攻撃手法が事前に知られていたことなどを踏まえると、今後も同様のリスクが繰り返される可能性は否定できません。発電所が意図せずサイバー犯罪に関与してしまう事態は、事業者にとって新たなリスクといえます。
2-3. 蓄電池や IoT 機器の増加で通信ポイントが増える
近年、太陽光発電所ではEMSの導入や蓄電池併設が進み、設備全体が高度化しています。その一方で、インターネットに接続される機器や通信ポイントが増えるほど、管理すべき範囲も広がるという側面があります。
接続点が増えることで、それぞれの設定状況や更新状態を把握しきれなくなり、一部の機器が無防備な状態で残ってしまうことも少なくありません。このような「管理の抜け」は、必ずしも高度な攻撃でなくとも、サイバーリスクを高める要因になります。
過度な懸念は不要?太陽光発電所におけるサイバーリスクの正しい理解と対策
太陽光発電所のサイバーセキュリティというと、「高度なハッカー攻撃」や「大規模停電」といったイメージが先行しがちです。とはいえ、過度に恐れる必要はありません。重要なのは、リスクの実態を正しく理解し、現実的な対策を講じることです。
3-1. 通信経路は限定的だが、前提としての管理は大切
多くの太陽光発電所では、一般的な企業ネットワークと比べると通信経路は限定的です。常時多数の端末が接続されているわけではなく、インターネットに直接公開されていないケースもあります。
ただし、「限定的=安全」というわけではありません。誰が・どこから・何に接続できるのかを把握しないまま運用していると、設定不備や更新漏れがそのままリスクになります。まずは通信構成を整理し、「想定外の接続」が存在しない状態を維持することが重要です。
3-2. メーカー・国による対策は進展しているが、事業者側の対応も不可欠
近年、PCSや監視装置のメーカー各社は、セキュリティを意識した設計やアップデート体制を強化しています。国においても、カーボンニュートラルの推進に伴い分散型電源の活用が進む中で、太陽光発電設備や監視装置の脆弱性が悪用される事例を踏まえ、小規模太陽光発電設備を含めたサイバーセキュリティ上の脅威や対策の整理が進められています。
太陽光発電所の主要な運用・管理システム構成機器もパソコン同様にアップデートが欠かせません。またパソコンのように製品のサポート期限が設けられている場合も多く、発電所を安全にかつ継続して運用するためには、期限内に交換・更新計画を立てることが重要です。つまり、運用中のセキュリティアップデートに関するコストや、アップデート提供・更新期限終了に伴う機器更新コストが必要となります。
一方で、実際の運用や設定は事業者側に委ねられている部分が多いのが現実です。初期設定のまま使い続けていたり、更新情報を把握していなかったりすると、制度やメーカー側の対策があっても十分に機能しません。国やメーカーの取り組みを前提としつつ、日常の運用管理まで含めて対応する姿勢が求められます。
3-3. サイバー被害の多くは人的要因から発生している
事実として、ランサムウェアをはじめとするサイバー被害の多くは、システムそのものよりも人的要因を起点に発生しています。特に近年は、PCや端末を多目的に利用する環境が一般化したことで、意図しない操作がインシデントにつながるケースが増加しています。
人的要因として注意すべき代表例が、メールに含まれる不用意なリンクのクリックや添付ファイルの開封、業務外サイトへのアクセスなどです。これらは本人に悪意がなくても発生しやすく、結果としてマルウェア感染や不正アクセスの入口となる事例が多数を占めています。特定のウイルスへの感染を経由し、最終的にランサムウェア被害へと発展するケースも一般的です。
その上で、操作ミスを助長する要因として、運用や設定に起因する問題も見逃せません。例えば、テレワーク対応などで導入したVPN機器の脆弱性を放置したまま運用していたり、リモートデスクトップのID・パスワードが容易に推測できる状態で使用されていたりすると、攻撃者に侵入の機会を与えてしまいます。これらも最終的には「人が適切に管理・更新していない」ことに起因するリスクといえます。
このように、人の操作や判断が入口になるケースが大半であるため、技術的な対策と合わせて、「不審なメールを開封しない」「パスワードの使い回しをしない」といった運用ルールの策定を徹底することが不可欠です。さらに、ルールを作って終わりにするのではなく、従業員や関係者に対する定期的なセキュリティ教育を行い、組織全体のリスク感度を高め続ける取り組みが求められます。

太陽光発電のサイバーセキュリティにおける動向:義務化の方向性と今後の安全設計へ
太陽光発電を含むエネルギーインフラは、社会的にも重要性が高まっており、サイバーセキュリティに関する制度面の整備も進みつつあります。
4-1. 2027年度からサイバー対策の義務化方針
現時点で詳細な制度が正式発表されているわけではありませんが、経済産業省などを中心に、一定規模以上のエネルギー設備に対してサイバー対策を求める方向での検討が進んでいるとされています。
これは、実際に大きな被害が出てから対応するのではなく、事前にリスクを抑えるための動きです。今後は、発電所の設計や運用段階から、セキュリティを前提とした考え方が求められる可能性があります。
4-2. 系統連系技術要件とサイバー対策
系統連系に関する技術要件も、今後はサイバーセキュリティの観点を含めて見直されていくことが想定されます。遠隔制御や出力制御が高度化するほど、通信の安全性が重要になるためです。
事業者としては、制度変更を「負担」と捉えるのではなく、長期的な安定運用と資産価値維持のための基盤整備と考えることが現実的でしょう。
太陽光発電においても重要な基本のサイバーセキュリティ対策
高度な専門知識がなくても、太陽光発電所で実施できる基本的なサイバー対策は多くあります。まずは、できることから確実に実行することが重要です。
5-1. 機器・ファームウェアの定期更新
PCSや監視装置、通信機器のファームウェアは、定期的に更新情報を確認し、必要に応じてアップデートすることが基本です。既知の脆弱性を放置しないだけでも、リスクは大きく低減します。特にインターネットに接続されている機器については、更新の有無が安全性に直結する点を意識する必要があります。
5-2. 通信経路の整理・分離によるセキュリティ設計
「常に接続できる状態」にしておく必要がある通信は限られています。不要なポートや機能は無効化し、必要最小限の通信だけを許可する設計にすることで、攻撃対象を絞ることができます。
その上で重要なのが、運用管理業務と一般業務との分離です。工場の制御系システムなどでは一般的ですが、メール確認や資料作成を行う一般業務用PCと、重要設備を扱う監視・運用業務用PCを分けて運用することで、不要な通信経路そのものを遮断できます。
以上のように通信経路の整理・切り分けを行えば、万が一インシデントが発生した場合でも影響範囲を最小限に抑えるセキュリティ構成を実現できるでしょう。
5-3. パスワード管理とアクセス制御
初期設定のID・パスワードをそのまま使わない、定期的に変更する、アクセス権限を担当者ごとに分けるといった基本的な管理は非常に重要です。特に外部から接続できる機器については、厳格な管理が求められます。誰がどの機器にアクセスできるのかを明確にすることが、リスク低減の第一歩です。
5-4. 担当者向け教育(メールやリンクの注意)
不審なメールや添付ファイル、URLに対する注意喚起を行うだけでも、人的要因によるリスクは大きく下げられます。技術対策と並行して、運用する人への教育を継続することが欠かせません。定期的な注意喚起やルール共有を行うことで、判断ミスを未然に防ぐ効果が期待できます。
まとめ
太陽光発電所のサイバーセキュリティは、特別な脅威というよりも、通信を伴う設備運用における「前提条件」として捉えることが重要です。発電停止や売電損失、不正利用といったリスクは、基本的な管理や設定の徹底によって大きく低減できます。
また長期的な安定運用と資産価値維持のためにも、通信・セキュリティまで含めて相談できるパートナー選びが欠かせません。ただ一方で業界全体を見ると、設備保守や点検には対応できても、通信設計やネットワーク設定、セキュリティ運用まで一貫して対応できるO&M会社は限られているのが実情です。
自然オペレーションズは、太陽光発電の知見と通信分野の専門性を併せ持ち、発電所の資産価値を長期にわたって守り抜きます。セキュリティ対策に不安をお持ちの方、通信環境の見直しを検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
参考:
小規模太陽光発電設備のサイバーセキュリティ対策について | 経済産業省
PPAモデル | 再生可能エネルギー導入方法 | 環境省
太陽光発電設備のサイバー対策、27年度に義務化 家庭用も対象 | 日本経済新聞
