系統用蓄電池のO&Mとは?必要性や基本機能5つ、実施・委託時のポイントを紹介

再生可能エネルギーの普及が進む中で、電力の安定供給を支える役割として注目されているのが系統用蓄電池です。大規模な設備となるこれらの蓄電池は、単なる導入にとどまらず、長期的に安全かつ効率的に運用し続けることが欠かせません。その要となるのがO&M(運転・保守)です。

本記事では、O&Mの必要性や基本機能、実施・委託時に押さえるべきポイントを整理し、事業リスクの低減と収益性の確保に役立つ内容を紹介します。

系統用蓄電池のO&Mが必要とされる背景

系統用蓄電池のO&Mが必要とされる背景として、主に以下の3つが挙げられます。

1-1. 再エネ普及に伴う設備運用の高度化

再生可能エネルギーの導入量は年々増加し、太陽光や風力の出力変動が電力系統の安定性に大きな影響を与えるようになっています。その安定化を担うのが系統用蓄電池です。

ただし、蓄電池の規模が数十MW級に拡大し、設備単体ではなく「発電所(蓄電所)」として扱われるようになったことで、導入だけでなく「長期にわたり安全かつ安定して運転し続けること」が事業成功の前提となりました。

こうした背景から、単なる設備の所有ではなく、継続的な運用・保守=O&M(Operation & Maintenance) の仕組みが不可欠になっています。O&Mを通じて事故リスクを低減し、設備寿命を延ばすことが、投資回収や収益安定化に直結するのです。

1-2. 法制度・規制による運用管理の義務化

系統用蓄電池は、電気事業法の改正により「発電事業」として位置づけられています。そのため、事業者には次のような義務が課されています。

  • 基礎情報の届出
  • 技術基準適合維持義務(設置後も法令基準を満たし続けること)
  • 使用前自己検査等の届出(稼働前に自ら安全確認を行い、経産省へ提出)

これらは太陽光発電所と同様の保安規制であり、事業者は法令に則った運用を継続的に行う必要があります。もし規制を怠ると、事故時の責任追及や行政指導、最悪の場合は稼働停止などのリスクがあります。そのため、O&Mを通じて法令遵守を担保することが欠かせません。

1-3. 発電所オーナーの事業リスク低減

近年は、太陽光発電のオーナーが新たな投資先として系統用蓄電池事業に参入するケースが増えています。ただし、蓄電池は制御や市場対応など、より高度な知識・体制が必要です。

例えば、トラブル時に復旧が遅れれば発電機会を失い、収益が大幅に減少します。さらに、計画と実績の差分によって電力市場からのペナルティ(インバランス料金)が発生するリスクもあります。こうした事業リスクを低減するには、体系化されたO&Mを通じた稼働の安定化が不可欠です。

適切なO&M体制を整えれば、以下のような効果が期待できます。

  • 設備故障によるダウンタイムを最小化
  • 計画外停止を防止し、発電機会を最大化
  • 中長期的な投資回収の確実性を向上

結果として、オーナーにとっての収益安定化につながるでしょう。

2. 系統用蓄電池O&Mで担う「5つの基本機能」

O&Mとは「運転と保守」を意味しており、系統用蓄電池の安定運営には欠かせない活動です。ここでは、具体的にどのような機能を担うのかを「5つの基本機能」として整理します。

なお、以下はあくまで概要であり、詳細な実施方法・対応範囲はO&M事業者ごとに異なる点はご留意ください。

2-1. 安全性確保(火災・電気保安・周辺への影響防止)

蓄電池は高電圧・大電流を扱うため、火災や感電などのリスクを常に伴います。特にリチウムイオン電池は熱暴走の危険性が指摘されており、万が一の発火は周辺環境にも大きな被害を及ぼしかねません。

そのため、O&Mでは消防設備や監視センサーの点検、電気安全基準に沿った保守を徹底し、事故の芽を未然に防ぎます。

2-2. 性能維持(劣化管理・運転管理・温度管理)

蓄電池は充放電を繰り返すことで徐々に劣化します。また、過充電・過放電をしてしまうと劣化が進むため、適切な運転管理も欠かせません。

セル間の不均衡や温度管理の不備は性能低下を加速させる要因です。O&Mでは劣化度のモニタリング、適切な温度管理を行うことで、長期的に性能を維持し、想定寿命を最大限に引き延ばします。

2-3. 稼働監視(遠隔監視・アラート運用)

蓄電池は24時間稼働を続けるため、常時の稼働状況監視が必要です。遠隔監視システムを用いて、異常値や故障兆候を検知し、アラートを即時に発報する体制がO&Mの基盤となります。この仕組みがあることで、現場に赴く前から障害の特定や初動対応が可能となり、復旧時間の短縮につながります。

2-4. 定期点検・予防保全(巡視・年次点検・部品交換)

定期的な巡視や年次点検は、蓄電池システムの信頼性を支える基本業務です。例えば、配線や接続部の緩み確認、絶縁抵抗測定、冷却システム、消防設備の動作確認などが行われます。また、寿命部品の計画的な交換を行うことで、突発故障を未然に防止できます。

2-5. 障害対応と復旧(駆けつけ・復旧手順・報告)

万が一トラブルが発生した際、迅速な現地対応と復旧手順の実行が求められます。特に蓄電池は電力市場や系統運用と密接に関わるため、停止時間が長引くとインバランス料金などの経済的損失に直結します。

O&Mの現場では、緊急時に駆けつける体制や復旧マニュアルを整備し、発生原因や対応内容をオーナーに報告することが重要です。こうした仕組みにより、事業リスクを最小化します。

3.系統用蓄電池O&Mを実施する上での注意点

系統用蓄電池のO&Mを行う際に注意すべきポイントを5つ解説します。

O&Mの重要性を理解していても、実際に運営するには下記の通り専門知識や手間、ノウハウなど多くのハードルがあります。専門的な体制を持つ事業者に委託することが現実的な選択肢といえるでしょう。

3-1. O&M実行のハードルの高さ

系統用蓄電池は化学的な劣化、セルの挙動、冷却システムの動作、消防法上の規制など、多角的な知識と経験が必要です。適切なマニュアルや人材がないまま自社で運営しようとすれば、想定外のトラブルが発生するリスクが高まります。

3-2. 電気事業法に沿った運用義務

2022年の制度改正により、系統用蓄電所は電気事業法上「発電事業」に位置づけられました。これに伴い、事業開始前の基礎情報の届出や、技術基準適合の維持、使用前自己検査等の届出といった手続きが義務化されています。これらを怠れば法令違反となり、最悪の場合は事業停止に至る可能性があります。

3-3. 消防法上の危険物規制

リチウムイオン蓄電池の電解液は消防法上の危険物に該当します。そのため、一定規模以上の系統用蓄電池は、設置段階から消防署との協議や申請が必要です。万一火災が発生した場合の消火方法も特殊であり、十分な知識を持つ人材による運用管理が欠かせません。消防庁でも「リチウムイオン蓄電池に係る危険物規制に関する検討会」を通じて、安全対策の検討が進められています。

3-4. 24時間365日の監視・対応体制

蓄電池は昼夜を問わず充放電することができ、常時稼働しています。そのため、日中のみ発電する太陽光発電所に対して、監視体制を昼間のみに限定するのでは不十分で、24時間365日対応できる仕組みが必須です。

夜間や休日に障害が発生しても、即座に検知・対応できなければ、長時間の停止による損失や安全リスクにつながります。実際には、専門事業者が遠隔監視センターを設け、アラート対応や現地駆けつけを組み合わせる体制が一般的です。

3-5. アグリゲーターとの連携の必要性

蓄電池は系統の需給調整に直接関わる設備であるため、障害時には発電計画と実績の乖離が発生します。この場合、市場でのインバランス料金というペナルティが発生するため、アグリゲーターとの連携が欠かせません。

O&M事業者が市場ルールや運用実務を理解していないと、対応が遅れ、オーナーに大きな経済的損失をもたらす恐れがあります。O&Mとアグリゲーターの協働は、リスク低減の観点で極めて重要です。

4. 系統用蓄電池におけるO&M委託先を選ぶ際の重要ポイント

ここまで解説した通り、系統用蓄電池のO&Mは高度な専門知識・常時監視体制・法規制対応力など、多岐にわたるスキルと仕組みを必要とします。

自社で完結させるのは現実的に難しく、外部の専門事業者に委託するケースが一般的です。ただし、委託先の選び方を誤ると、障害時の対応不足や市場での損失拡大につながりかねません。以下の4つの観点を重視するとよいでしょう。

4-1. 専門人材によるサポート体制があるか

系統用蓄電池は、電気主任技術者や蓄電池の化学的特性を理解した技術者による監督が欠かせません。委託先を選ぶ際は、単なる設備管理者ではなく、電気事業法・消防法を熟知した専門人材が在籍しているかを確認することが重要です。特に、異常発生時の判断や行政との協議に対応できるかどうかは、委託先の信頼性を測る指標となります。

4-2. 常時監視と緊急時の対応は可能か

O&M事業者の中には、定期点検のみを請け負い、常時監視や駆けつけ対応は外部に任せるケースもあります。ただし、蓄電池の特性上、24時間365日の遠隔監視と緊急時の現地対応を自社体制で実行できるかどうかが極めて重要です。監視センターを保有し、異常検知から復旧まで一貫して対応できる事業者を選ぶことで、安心感が大きく高まります。

4-3.トラブル時の電力市場対応力はあるか

蓄電池は市場取引と密接に結びついているため、障害時の発電計画乖離はインバランス料金の発生につながります。委託先がアグリゲーターと連携し、適切に市場対応を行えるかは、事業収益の安定性を大きく左右する要素です。市場制度や運用ルールを熟知し、障害時に迅速な調整を行える事業者であれば、経済的リスクを最小限に抑えられます。

4-4. 実績に基づいた運営ノウハウを有しているか

系統用蓄電池のO&Mはまだ比較的新しい分野であり、事業者によって経験値に大きな差があります。過去にどれだけの案件を管理してきたか、障害発生時にどのような対応を行ってきたかといった実績は、委託先の力量を判断するうえで不可欠です。また蓄電池に加え、太陽光発電などのO&M経験も豊富な事業者であれば、再エネ設備全体を俯瞰した運営支援を期待できます。

5.まとめ

系統用蓄電池は、再エネ普及の拡大とともに重要度を増しているインフラです。ただし、その導入・運用は発電所オーナーにとって新たなリスクを伴い、適切なO&Mを欠けば収益性や安全性が大きく損なわれます。

本記事では以下の点を解説しました。

  • 再エネ普及や法規制強化により、系統用蓄電池のO&Mは不可欠となっていること
  • O&Mが担う基本機能は、安全性確保・性能維持・稼働監視・定期点検・障害対応の5つであること
  • 実施にあたっては、法制度対応や24時間監視、アグリゲーターとの連携が必要であること
  • 委託先を選ぶ際は、専門人材・常時監視体制・市場対応力・実績を必ず確認すべきこと

これらを踏まえると、自社で全てをまかなうのは難易度が高く、信頼できるO&M事業者とのパートナーシップが不可欠だといえます。

自然オペレーションズ株式会社では、系統用蓄電池を含む再エネ発電所のO&Mを専門に手がけております。定期点検やモニタリングはもちろんのこと、24時間365日の監視体制や障害時の市場対応サポートなど、オーナーの安定経営を支える仕組みを提供しています。蓄電池事業の運営でお困りの方は、ぜひ以下よりお気軽にお問い合わせください。


参考:
蓄電所に対する保安規制のあり方について|経済産業省
リチウムイオン蓄電池に係る危険物規制に関する検討会|総務省消防庁

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