稼働10年の太陽光発電所が直面する土木リスクとは?点検・補修の重要性

2025年1月、東京・秋葉原で「第32回PVビジネスセミナー」が開催されました。本セミナーは、再生可能エネルギーの導入拡大に向け、最新の技術動向やビジネスモデルの紹介や情報共有を目的としています。

2040年度における再生可能エネルギーの導入目標を大幅に引き上げる必要に迫られるなか、蓄電池の導入拡大や太陽光パネル義務化に関する動向、太陽光発電所の運用保守向上など重要かつ多角的なテーマでの発表がなされました。

当社(自然オペレーションズ株式会社)からは、「10年目の発電所運用を迎える事業者が取り組むべき土木点検をO&M会社のシニアエンジニアが解説」という講演テーマで、エンジニアリング部工事グループの門中章二が登壇しました。

多くの太陽光発電所が稼働10年を迎えつつある今、土木関係のセミナーも開催され始めており、業界の関心も高まっているため、本レポートにて概要とポイントをご紹介します。

 

稼働10年を超える太陽光発電所が多数|求められる土木点検

2012年にFIT制度がスタートしておよそ13年が経過したことを背景に、稼働10年を超える発電所は既に全体の4割以上に及びます。

参照元:資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの導入状況(2024年6月13日)」

このような稼働10年を超える発電所がこれまで同様に運用を続けていくためには、定期的な点検が欠かせません。

ただ、電気通信設備の点検は日常的・定期的に行われる一方、土木面に関する点検は「何かが起きてから」の対応がほとんどです。

ここで重要なのは、土木面については「予防的管理(=補修)」を重視すべきという点です。コスト面からみても「何かあってからの修繕」より「早期の点検・補修」の方が負担が少なく済む点は、オーナーにとって重要なポイントのひとつでしょう。

また、こちらはLCC(ライフサイクルコスト)に関して「補修・修繕・改修」の概念を示した図です。設備性能の維持を図るためには、定期的な点検と「補修」、一定期間後の「修繕」を要し、将来的には「改修」で新たな性能レベルへの引き上げが必要となることを示しています。

まずは、日常的な点検と必要に応じた「補修」を行い、性能レベルを維持していくことが大切です。

 

激甚化する気象状況、問われる社会的責任

多くの太陽光発電所が稼働10年を迎えるなか、今後も事業者は安心・安全な発電所を維持しなければなりません。

しかし昨今、記録的な豪雨や台風など日本の気象状況は大きく変化しており、建設当時の想定を上回る事態になりつつあります。そこに建物・設備の経年劣化が伴えば、様々なリスクを引き起こします。

さらに、政府方針で2040年には現在の倍にあたる再生可能エネルギー比率が求められるなか、太陽光発電所は期待される一方で、付随する問題・課題にも注目が集まりやすいといえます。

いずれにしても、FIT後も継続して稼働をするのであれば「現段階での点検・補修」が鍵を握る点は間違いないでしょう。

 

発電所を取り巻く土木リスク

発電所の土木リスクは、主に以下の3つに分類されます。

  • 地盤関係:地盤沈下や崩壊リスク
  • 濁水問題:周辺環境への影響
  • 架台の健全性:長期的な耐久性

特に「濁水・土砂流出」は近隣への影響が大きく、発電所の継続運営を左右するため、対応が欠かせません。

 

NEDOのガイドラインと維持管理のポイント

下記は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のガイドラインで示された「土木維持管理のポイント」です。

対策内容にある通り、「変状」と「変形」がキーワードです。地盤や排水などを外観目視で確認し、変状・変形があれば、それは補修を検討すべきサインです。
セミナーでは、講演者(門中)が実際に撮影した現場写真を交えながら「太陽光発電所を取り巻く土木リスクの実状」について解説しました。

ここでは、いくつかをピックアップして紹介します。

 

排水設備に関するリスク

まず排水設備周りについてです。

■洗堀の進行と濁水・土砂の発生

洗堀によって水がU字溝を流れておらず、さらに洗堀が進行してしまう状況が生じています。その結果、下流部で濁水や土砂の流出が発生しています。

■跳水による法面崩落

水は急に曲がれないため、平面・縦断の線形による排水溝では、跳水と導水不良が生じます。その結果、写真では右側にある法面の崩落を引き起こしています。

気象庁のデータにより豪雨発生率が10年前と比べて1.4倍となっている背景を踏まえると、「安心できる設計か」「現状に合っているか」などが懸念点といえるでしょう。

この他にも、刈り取った草や雨裂などにより、水の流れに変化が起きて排水構造物が十分に機能していないケースが散見されます。

以上のように、排水構造物が求められる役割を果たせないどころか、濁水や土砂流出、法面崩落など周辺環境へ被害を及ぼすケースが生じているのです。

 

環境変化に関するリスク

次に環境変化に関するリスクです。

■自営線への倒木リスク

地盤が削られており自営線への倒木リスクが非常に高い状態です。特別高圧電力の自営線であり、被害が発生すれば売電損失も甚大なため、早急な補修を要します。

 

濁流・土砂に関するリスク

濁流や土砂に関するリスクも注視しなけれなりません。

■太陽光パネル下の洗堀と緑化不全

■法面の崩壊

いずれのケースも「土砂・濁水流出」の原因となります。

令和6年4月1日に運用が開始された「盛土規制法」により、沈砂池・調整池の土砂の取扱いが厳しくなっているため、少しでもリスクを感じたら事前に対処しておくことを推奨します。

 

架台に関するリスク

太陽光パネルを支える架台も経年により、転倒や腐食といったリスクにさらされています。

■杭基礎地盤の変状による基礎杭の転倒リスク

10年経過の節目に一度架台の健全性を検証し、必要に応じて補修を行わなければ、FIT終了まで持ちこたえられないケースが出てくるでしょう。反対に今の時点で修繕しておけば、架台の延命化を図れます。

また「変状」は主に基礎地盤で生じていますが、最近は鋼材の腐食が見られる発電所もあります。アレイ劣化に起因する発電量の減少や周辺への飛散などのリスクもあるため、点検を推奨します。

 

■接続部の腐食

 

緑化の重要性|リスク低減・発電効率アップ

緑化は「濁水発生防止」や「パネル裏の温度上昇抑制」に効果があります。もちろん緑化さえ行えば万全というわけではありませんが、林地開発案件においては、緑化が出来ていないと完了検査をしてもらえない行政もあるほど、重要な取り組みです。

ただし、除草残材の放置や排水構造物周りの除草不足は、変状の原因となるため注意が必要です。

最後に、当社(自然オペレーションズ)による緑化の実施例を紹介します。

濁水・土砂流出が問題になっていた発電所で、玉石・礫質土のため、通常の植生では対応できなかったサイトでした。

そこで、吹付飛散のない特殊な植生材を用いて施工を実施し、十分な成果を得られたため、事業者様はもちろん、周辺地域・行政機関にもご満足いただきました。

■施工前(自然オペレーションズ施工事例)

■施工後(自然オペレーションズ施工事例)

緑化にあたっては、土の物性、地形や水の流れといった土木的な観点に加え、立地地域の気候、立地地域で利用可能な植物など様々な要素を検討する必要があります。

 

まとめ

多くの太陽光発電所がFIT10年目を迎える今、再生可能エネルギーへの期待はますます高まっています。

一方で今回紹介したような「各種設備の経年劣化」や「発電所内外の環境変化」が進行しており、自らの施設内だけでなく周辺地域に対するリスク管理も問われています。

FIT後も安定した稼働を継続するためには、今こそ「点検・補修」が必要です。

自然オペレーションズでは、電気系の日常オペレーションとは別に「無料防災パトロール」を実施しています。被害や損失を未然に防ぐための土木リスクの洗い出し、予防・改善提案を行いますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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