発電事業の税制優遇制度を解説|再エネ固定資産税特例と各自治体の事例

再生可能エネルギーの設備導入には初期投資だけでなく設置後の固定資産税も発生し、事業コストとしては見逃せない要素です。その際「再エネ固定資産税特例」を活用すれば、課税標準を軽減でき、初期数年の税負担を抑えながら投資回収をサポートできます。

そこで本記事では、特例の仕組みや対象設備などの基本から、自治体ごとの調整制度「わがまち特例」、自治体の事例、申請・手続きの概要、今後の見通しまでを解説します。

再エネ固定資産税特例とは

再エネ固定資産税特例とは、正式には「再生可能エネルギー発電設備に係る課税標準の特例措置(固定資産税)」を指します。制度の仕組みはシンプルで、通常は課税標準額に対して1.4%課される固定資産税について、再生可能エネルギーに関する設備は一定割合で軽減できるというものです。

太陽光や風力といった再生可能エネルギー発電設備には、導入時に相応の初期投資がかかります。特に倉庫や工場の屋根に太陽光パネルを設置して自家消費するようなケースでは、設備費だけでなく毎年の固定資産税・償却資産税も固定費としてコストとなります。再エネ固定資産税特例は、再生可能エネルギー設備の普及促進を目的として、こうした負担を軽減するために設けられています。

結果として、設備を設置した最初の数年間における税負担が軽くなり、投資の採算性を高める効果があります。

留意点として、この特例は FIT制度(固定価格買取制度)やFIP制度(フィードインプレミアム制度)を利用する再エネ発電所は対象外であるため、あくまで自家消費やオンサイトPPA用の発電設備が対象である点です。
近年、自社の事業活動を脱炭素化する目的や、運用する建物の資産価値を高める目的で、太陽光発電設備を導入するケースが増えています。このような事業者にとって、大きなメリットがある制度だといえます。

制度創設の経緯と改正の流れ

再エネ固定資産税特例は、再生可能エネルギーの普及を政策的に後押しするため、2009年度に始まりました。当初は太陽光発電だけを対象にしていましたが、その後のエネルギー政策の変化に伴い、対象は段階的に拡大されています。

まず平成21年度(2009年度)、家庭や企業の太陽光発電を広げることを目的に特例が創設されました。続いて平成24年度(2012年度)には、風力・水力・地熱・バイオマスといった他の再生可能エネルギーも対象に含められます。こうして、単なる太陽光支援から「再エネ全体を支える制度」へと性格を変えていったのです。

以降はおおむね2年ごとに延長され、現在のところ令和7年度末、つまり2026年3月末までの取得設備が対象となっています。背景には、再エネを「主力電源」として位置付ける国の方針があり、固定資産税の優遇を通じて投資を呼び込み、地域経済の活性化につなげる狙いがあります。

制度の仕組みと適用範囲

再エネ固定資産税特例の基本は、課税標準額を通常よりも低く計算できる点にあります。通常、償却資産(機械や設備などの事業用資産)には固定資産税が課されますが、特例が適用されるとその評価額を一定割合で軽減できます。

具体的には、太陽光発電やバイオマスなど多くの再エネ設備で「課税標準額を3分の2」に軽減する仕組みとなっています。つまり本来なら100の価値がある設備でも、課税計算上は67として扱われるため、結果として固定資産税が減額されます。

対象設備は以下の通り、再生可能エネルギーの主要な発電方式が網羅されています。

  • 太陽光発電設備
  • 風力発電設備
  • 水力発電設備(中小規模に限定)
  • 地熱発電設備
  • バイオマス発電設備

ただし、どの設備でも無条件で特例が受けられるわけではありません。取得年度や出力規模、そして「自家消費であること」など、一定の条件を満たす必要があります。

特にFITやFIPに基づく売電専用設備は対象外となるため、自社の敷地や建物の屋根で発電し、その電気を工場や倉庫で消費するケースこそが典型的な対象だといえるでしょう。

また、制度の適用を受けるためには、自治体への申告・手続きが不可欠です。制度の存在を知っていても、申告を怠れば特例は適用されません。税務担当部署に相談してから導入を進めるのが安全です。

「わがまち特例」とは?

再エネ固定資産税特例には、自治体ごとに内容を調整できる仕組みがあり、これを「わがまち特例」と呼びます。

具体例として、国の標準ルールでは課税標準を原則2/3に軽減しますが、自治体は条例により「±1/6」の範囲で増減できます。つまり、同じ太陽光発電設備でも、設置する場所によって実際の税負担が変わるのです。

再エネ導入を推進したい自治体では軽減率を拡大し、逆に財政上の理由などから軽減幅を抑えるケースもあります。これは単なる税制措置にとどまらず、地域振興や企業誘致の政策手段として位置づけられています。

そのため、発電所オーナーは「どの自治体に設置するか」で固定資産税が変わる可能性があることを理解し、導入前に必ず設置予定地の自治体の公式情報を確認しましょう。

参考:
地方税制度|わがまち特例|総務省
住宅(住宅用地)以外に関する固定資産税の特例について|仙台市

税制優遇制度における各自治体の事例(令和7年度)

再エネ固定資産税特例は全国一律の制度ですが、実際の運用は自治体ごとに差があります。ここでは、4つの自治体の事例を紹介します。

大阪市

大阪市では、再生可能エネルギー発電設備の固定資産税に関して、課税標準の特例を明確に案内しています。対象となるのは、償却資産として申告が必要な再エネ設備で、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスと幅広い発電方式が含まれています。

申請にあたっては、通常の償却資産申告書に加えて、設備が特例の対象であることを証明できる書類が必要です。たとえば再エネ設備の認定通知書や、取得内容を示す明細資料などが該当します。適用期限は令和7年度末(2026年3月31日)までとされています。

大阪市の特徴は、公式ページで設備ごとの適用範囲や必要書類を整理し、納税者が確認しやすい形にしている点です。市内で工場や倉庫を営む事業者にとって、太陽光自家消費の税負担軽減を確実に受けるための実務的な情報がそろっています。

参考:
再生可能エネルギー発電設備の課税標準の特例|大阪市

仙台市

仙台市では、固定資産税に関する課税標準の特例についての資料を公表しており、「令和8年3月31日までに取得した設備」が対象であることや特例の軽減率などを明示しています。事業者にとっては、制度の適用可否を判断しやすいといえるでしょう。

また、仙台市では「わがまち特例」に関する情報も併せて提供しています。標準的な課税軽減に加えて、地域の産業振興を意識した調整が行われており、場合によっては通常より軽減率が有利になるケースもあります。

参考:
再生可能エネルギー発電設備(太陽光発電設備等)に係る固定資産税の課税標準の特例について|仙台市
住宅(住宅用地)以外に関する固定資産税の特例について |仙台市

名古屋市

名古屋市では、再生可能エネルギー設備の導入を検討する事業者向けに、課税標準特例の制度を案内しています。特に、太陽光発電の自家消費を推進するなかで、固定資産税の特例措置が整理されている点が特徴です。

太陽光パネルを設置した場合、「それが課税対象となるか」「どの程度の税負担になるのか」は事業者にとって重要な関心事ではないでしょうか。その点、名古屋市では「太陽光発電設備を設置された方へ」というページを設けて、課税の対象範囲や申告に必要な考え方を明確化しています。

さらに「わがまち特例」による調整も行われており、地域の産業活動や再エネ導入推進に即した対応がなされています。他都市と比較しても、事業者が「税制と導入メリット」を同時に理解しやすい情報提供がなされています。

参考:
償却資産に関する様式等のダウンロード(申告の手引、申告書、種類別明細書等)(暮らしの情報)|名古屋市
太陽光発電設備を設置された方へ<固定資産税(償却資産)のお知らせ>|名古屋市

南相馬市(福島県)

福島県南相馬市は、再エネ政策に積極的な自治体のひとつで、「わがまち特例」を前面に押し出した制度運用を行っています。市の公式ページには、発電種別や出力規模、そしてFIT・FIPの有無ごとに、適用される特例率や期間が細かく整理されています。

例えば、太陽光発電についても、出力や利用目的に応じて軽減率が異なるように設定されており、一般的な一律運用とは異なる柔軟性を持っています。これは震災復興を背景とした地域振興策の一環であり、再エネ設備の導入促進を地域政策と結びつける象徴的な事例といえます。

また市の公式サイトでは、課税免除や条例ベースの情報まで含めて詳細に説明されているため、再エネ事業者にとっては実務的に役立つ内容です。制度を活用する際には、他の自治体以上に「自分の設備がどの枠組みに該当するか」を確認する必要があります。

参考:
わがまち特例による固定資産税の特例措置について|南相馬市
新産業創出等推進に係る課税免除(イノベ税制)について|南相馬市

再エネ固定資産税特例の申請方法と手続き

再エネ固定資産税特例を受けるためには、必要書類を期限内に提出しなければなりません。

原則として、設備を取得した翌年の1月31日までに申告を行う必要があります。提出先は、設備を設置した自治体の資産税担当課(多くは市区町村役場の税務課)です。

自治体ごとに求められる書類は多少異なりますが、一般的には以下のような資料が必要です。

▼必要書類の例

  • 償却資産申告書:全ての事業用資産を記載する基本書類
  • 再生可能エネルギー発電設備の認定通知書:経済産業省などから発行される設備認定の証明
  • 設備取得に関する明細資料:請求書や契約書など、設備内容と金額を証明できるもの
  • その他、自治体が指定する添付資料:設置状況写真や仕様書を求められる場合もある

これらを整えた上で、申告書と一緒に提出することが求められます。

なお固定資産税は「自己申告方式」が基本です。つまり、自治体が自動的に特例を適用してくれるわけではなく、オーナー自身が申告を行わなければなりません。

書類不備や添付漏れがあると、せっかくの特例が受けられないケースもあります。申告直前になって慌てるのではなく、余裕を持って準備を進め、疑問点があれば必ず自治体の税務課に確認することが重要です。

今後の見通しと留意点

固定資産税特例の現行制度は令和7年度末(2026年3月31日取得分まで)が対象です。これまでの「約2年毎の延長実績」から、再エネ普及の政策目標を踏まえれば今後も延長される可能性はありますが、政策や財政状況によっては縮小や廃止のリスクもあります。

発電事業において固定資産税は収支に直結するため、制度改正の動向を常に確認し、投資判断に反映させることが重要です。

また「わがまち特例」により自治体ごとに軽減内容が異なる点や、制度期限を過ぎた設備は対象外になる可能性がある点にも注意が必要です。設置予定地の自治体公式情報を必ず確認し、二次情報だけで判断しないことが大切です。

このように、特例制度は自動延長されるものではなく、地域や政策によって変化する可能性があるため、事業計画では税制の変化も視野に入れる必要があります。

まとめ

再エネ固定資産税特例は、太陽光発電所オーナーにとって事業収益性に直結する重要制度です。以下に本記事のポイントをまとめます。

  • 制度の概要:課税標準を 2/3 に軽減する仕組みで、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスが対象。
  • 「わがまち特例」:自治体独自の調整により、同じ設備でも設置場所によって税負担が異なる。
  • 代表的な自治体事例:大阪市、仙台市、名古屋市、南相馬市はいずれも公式ページで情報を明示し、事業者が判断しやすい環境を整備。
  • 申請手続き:期限は設備を取得した翌年1月31日、必要書類を揃えて自治体へ申告。自己申告方式である点に要注意。
  • 今後の見通し:2026年3月末まで確定。延長の可能性はあるが未定のため、最新情報の確認が必須。

なお本記事で取り上げた自治体事例はあくまで一例です。実際に太陽光発電所を設置する際には、必ず「所在地の自治体」に問い合わせ、一次情報を基に申告手続きを行うことが重要です。

再エネ設備の導入は、地域や社会全体にとって持続可能な未来を築く一歩となります。その取り組みを後押しする税制優遇制度を正しく理解し、堅実に活用していきましょう。

 


参考:

各種支援制度|なっとく!再生可能エネルギー|資源エネルギー庁
租税特別措置等に係る政策の事前評価書|経済産業省
再生可能エネルギー – FIT・FIP制度 ガイドブック|資源エネルギー庁
再生可能エネルギー発電設備に係る課税標準の特例措置 (固定資産税)制度概要|資源エネルギー庁
租税特別措置等に係る政策の事前評価書|環境省

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