ソーラーグレージングとは?羊を用いた太陽光発電所の除草について、メリットや事例を紹介
太陽光発電所では、発電効率を維持するために雑草の管理が欠かせません。これまで除草剤の散布や機械による草刈りなどが一般的でしたが、近年では「ソーラーグレージング」という除草目的だけに留まらない新たな管理手法が注目を集めています。
ソーラーグレージングとは、太陽光パネルの設置された敷地内で羊などの家畜を放牧し、自然の力で除草を行う方法です。特に羊は設備に与える影響が少なく、穏やかな性質から導入しやすい動物とされています。
そこで今回は、ソーラーグレージングの基本的な仕組みや、導入によるコスト・環境・地域面での波及効果に加え、実例も紹介します。再生可能エネルギーと農業の共存を目指す新しい取り組みとして、導入に向けたポイントも解説します。
ソーラーグレージングとは?羊で太陽光パネル周辺を除草
ソーラーグレージング(Solar Grazing=牧草を食べる)とは、太陽光発電所の敷地内に羊などの家畜を放牧し、自然に雑草を食べさせることで除草を行う管理手法です。
太陽光発電所では、パネル周辺に雑草が繁茂すると発電効率の低下やメンテナンスへの支障、および周辺地域への迷惑につながることもあるため、定期的な雑草管理が不可欠です。
一般的に、人力による草刈りや草刈機、除草剤の散布などが主流でが、近年はこれに代わる方法として、家畜による除草が注目されています。
特に羊は温和な性質で太陽光設備を壊しにくく、土の掘り返しをしないため設備の影響が少ないとされています。背も低いためパネルに影を落としにくいことから、太陽光発電所に適した動物といえます。
ソーラーグレージングのメリット
ソーラーグレージングには、コスト・環境・地域との関係性の面でさまざまな利点があります。
維持管理コストの削減
ソーラーグレージングの導入により、草刈りにかかるコストを抑えることができます。従来、太陽光パネル周辺の雑草は人手や草刈機、除草剤などを使って管理されてきましたが、これらは労力・人件費・燃料費などが継続的に発生します。
対して、羊を放牧すれば雑草を自然に処理でき、また継続的に雑草を食べるこにより雑草の根が弱まるなどの効果もあるため、草刈り作業の頻度が減り、長期的には運用コストの削減につながるのです。
エネルギーと農業(畜産)の両立
ソーラーグレージングでは、同じ土地で発電(太陽光発電)と畜産(羊の飼育)を同時に行うことができ、収益の多角化につながります。
なお運用方法には、大きく以下の2つがあります。
- 自然に生えた雑草を羊に食べてもらう方法(飼料・水などは別途与える)
- 牧草地として育てた場所に太陽光パネルを設置して放牧する方法
いずれも、発電と農業(畜産)の共存を目指す営農型太陽光発電として、実例が報告されています。
昨今は地球温暖化により年々平均気温が上昇しており、太陽光パネルが日射を遮ることで日光の直射を緩和できます。これにより、羊の日除けや草地の蒸散緩和として、発電設備の設置が農業に好影響を与えます。
環境への負担軽減
羊による除草は、除草剤を使わずに植物の管理ができる点で環境への負荷がより少ない方法といえます。また、牧草地として整備することで耕作放棄地化、ひいては土壌の浸食や乾燥を防ぎ、植生の維持にもつながります。
また、化学薬品を使わないため、周囲の水質や生態系への影響も抑えられ、持続可能な土地利用の実現にも貢献します。
景観・地域資源としての活用
太陽光発電所は、景観に与える影響や地域住民からの理解不足が課題となるケースも散見されます。
羊の放牧は、施設に生き物が暮らすことで、周辺地域との親和性向上を図れます。羊の存在が親しみやすさや癒やしの効果をもたらすため、発電事業への好意的なイメージ醸成にもつながります。
来訪者向けのイベントや見学会、学校との連携による環境教育の場としての活用も可能であり、発電所が地域と共生する拠点としての役割を担えます。
羊を用いたソーラーグレージングの事例
羊を用いたソーラーグレージングの事例を、2つ紹介します。
オーストラリアにおける事例
オーストラリア・ビクトリア州にある約112 MW(128 MWp)の大規模太陽光発電所「Numurkah Solar Farm」では、約515 haの敷地に最大1,600頭のメリノ種羊を常時放牧し、ソーラーグレージングによる除草と畜産の二重利用が実施されています
運営元のNeoen社とClean Energy Regulator(豪州政府機関)は、草刈機や除草剤を使わず、羊が自然に雑草を食べる方式を「agrı-solar(営農型太陽光)」として成功事例に位置づけています。
単なる除草にとどまらず、干ばつ時でもパネルの角度により露が集まり、草地に水分を供給することで発育が促進されるなど、従来と異なる植生管理効果も確認されています 。
さらに、植生管理によって火災リスクが軽減される点も重要な要素です。敷地周囲の火災予防要件に対応するかたちで、羊が乾草を効率的に制御し、草の燃料負荷を抑制したのです。
このプロジェクトは、地域農家との継続的な協力関係を含めた雇用創出にも成功しており、建設期には300人以上、現在も6名の地元常勤スタッフが勤務。また、年間15,000豪ドル規模のコミュニティ支援基金も運用され、現地経済にも貢献しています。
こうした包括的な取り組みは、再生可能エネルギーと畜産を組み合わせた発電所の新たなモデルとして、オーストラリア政府のガイドラインにも取り上げられる象徴的事例となっています 。
参考:
Combining sheep farming and solar panels at Numurkah | Clean Energy Regulator
カナダ・オンタリオ州における事例
カナダ・オンタリオ州では、Western University(ウェスタン大学)とララ・コスタ農場(The Lara Costa Farm)が共同で、太陽光発電所の敷地内に羊を放牧する「ソーラーグレージング(Solar Grazing)」の有効性を研究しています。
このプロジェクトは、発電設備の除草管理を効率化しつつ、農業収益も得られる営農放牧型太陽光発電の実証例として注目を集めています。
研究チームは、太陽光パネルの設置された土地で羊を放牧した際の環境的・農業的影響を調査。その結果、パネルの下では直射日光が遮られることで牧草の水分保持性や気候への耐性が向上し、一般的な牧草地と比較しても生産性が高いと報告されました。これにより、放牧地としての価値も高まると評価されています。
また、植生の自然な管理が可能となり、除草作業や機械燃料にかかる負担が軽減されるという利点も示されました。
こうした成果は、学術誌『Applied Energy』にも発表されており、同大学の公式ニュースでも紹介されています。この研究は、単なる除草手法としての羊の活用にとどまらず、再生可能エネルギーと畜産の共生による持続可能な土地利用モデルとしての可能性を示しています。
参考:
Grazing ‘solar’ sheep offer lucrative solution for farmers, Western research shows | Western News
ソーラーグレージング導入時のポイント
ソーラーグレージングは、維持管理の効率化や環境負荷の軽減に寄与する一方で、導入・運用にあたっては慎重な計画が求められます。
特に、畜産(酪農)と太陽光発電O&M(運用管理と保守点検)のそれぞれに精通した専門家の連携・協業が欠かせません。その上で、以下では導入時に押さえるべき主な3つのポイントを紹介します。
フェンス・水場・監視体制の整備
ソーラーグレージングにおいて、羊が太陽光発電所内を安全に移動しながら除草を行える環境の整備が求められます。フェンスの設置は、羊の脱走を防ぐだけでなく、野生動物の侵入や近隣農地への影響も防止できます。また、羊は常に水を必要とするため、飲み水を確保できる水場の整備も不可欠です。
加えて、羊の健康や行動を日常的に把握するためには、定期的な巡回や監視カメラの設置などのモニタリング体制も欠かせません。こうした基礎となる環境・体制が整って初めて、安定したソーラーグレージングの運用が可能となります。
産業用太陽光発電所では、高圧電流が流れる設備としての規制上、むやみな立ち入りができないようフェンスの設置が義務付けられており、ソーラーグレイジングと相性がいいという側面があります。
また施設管理として通常、遠隔監視等のモニタリングが行われています。適切な太陽光発電所の設備管理が、ひいては適切なソーラーグレージングの運用につながります。
衛生と安全管理
太陽光発電所での羊の放牧には、家畜の健康と発電設備の保全を両立させる仕組みが必要です。まず、羊の健康を守るために定期的なワクチン接種や寄生虫予防などの衛生管理が求められます。
一方で、発電設備と動物の安全な共存も不可欠であり、ソーラーパネルや配線への接触によるトラブルを避けるために、羊が機器に干渉しない設計や放牧区画の適切な管理が必要です。
さらに、畜産と発電施設管理におけるそれぞれの専門家の支援・アドバイスを受けつつ、異常を早期に察知・対応できる体制づくりが推奨されます。「人と動物の安全を守る体制構築」が、長期的な運用の前提となる点を意識しましょう。
地域との関係構築
ソーラーグレージングを円滑に継続するためには、地域住民との良好な関係構築が重要です。羊の放牧によって、におい・鳴き声・動物アレルギーなどに関する懸念が生じる可能性もあるため、事前の説明や配慮が求められます。
加えて、ソーラーグレージングの現場を学校や地域団体の見学・体験の場として活用するなど、環境教育や観光資源としての展開も有効です。こうした地域連携は、施設・設備のイメージ向上や長期的な事業の安定化へとつながります。
まとめ|ソーラーグレージングは、コスト・環境・地域の三方良し
ソーラーグレージングは、羊を活用して太陽光発電所内の雑草を自然に管理する持続可能な手法です。導入することで草刈りコストの削減だけでなく、農業収益との両立や除草剤不使用による環境保護も実現できます。
実際に、宮城県では社員交流を兼ねた施策としても活用されており、オーストラリアやカナダでは発電効率の維持や地域経済への貢献にもつながる事例が見られます。
ただし、実施にはフェンス・水場の整備、家畜の健康管理、地域との連携といった多方面での準備が不可欠です。
総じてソーラーグレージングは、「コスト削減」「環境保全」「地域との共生」の“三方良し”を実現可能なアプローチとして、今後ますます注目されると予想されます。太陽光発電所オーナーにとって有益な選択肢となるでしょう。
自然オペレーションズではソーラーグレージングに関するお問い合わせを受け付けております。ご興味のある方はぜひお問い合わせください。