太陽光パネルは危険?事実と実態に基づいた解説

地球温暖化に対する有効策として注目され、導入が進む太陽光パネル。

ただ一方で、「有害物質が含まれている」「破損すれば環境に悪影響がある」など、太陽光パネルに対する懸念を煽るような報道も散見され、不安に感じている方も少なくありません。

確かに、太陽光パネルの種類によっては鉛やカドミウム、ヒ素、セレンといった物質が使われているケースもあります。しかし、それらはどの程度含まれているのか、どの種類のパネルに該当するのかといった“正確な情報”が語られないまま、誤解が広がっているのが現状です。

そこで本記事では、太陽光パネルの種類やシェア率、有害物質の含有状況、リスクの実態までを事実に基づいてわかりやすく解説します。正しい知識を得て、2030年後半以降に発生が予想される大量廃棄・不法投棄問題に備える手助けができればと思います。

太陽光パネルの「種類とシェア率」を正しく理解しよう

太陽光パネルの「種類とシェア率」について正しく理解することで、有害物質の含有に関する課題の本質が見えてきます。

太陽光パネルに含まれる有害物質は種類によって異なる

太陽光パネル(太陽電池モジュール)の種類は、大きく「シリコン系」「化合物系」「有機系」の3つに分類され、含有される主な有害物質も異なります。

例えば、「シリコン系」であれば「鉛」が含まれており、「化合物系」であれば「鉛・カドミウム・セレン」が含まれています。

▼太陽光パネル(太陽電池モジュール)の種類とシェア率

※出典:太陽光発電設備の廃棄・リサイクル制度の論点について|経済産業省・環境省

また注目すべきは、太陽光パネルの種類ごとにおけるシェア率です。国内市場においては「シリコン系」がシェア全体の約95%を占めています。

一方で、以前の報道記事にあった「鉛・カドミウム・セレン」を含む「化合物系」のシェア率は約5%です。

にもかかわらず、記事内では、化合物系の太陽光パネルに関する記載しかなく、あたかも「太陽光パネル=鉛・カドミウム・セレンをすべて含む化合物系のみ」という間違った印象を与えかねない内容となっています。

このように太陽光パネルについて、偏った情報が流れている事実も、まず理解しておきたいポイントです。

有害物質は「どこ」に「どの程度」含まれているのか

では具体的に、各有害物質は「どこ」に「どの程度」含まれているのでしょうか。

鉛(Pb)は電極のごく一部に使用されている

鉛(Pb)は下記画像の通り、太陽電池セル(太陽光パネルを構成する最小単位)の電極①(うっすら見える横線部分)にごく少量が使用されています。

 

鉛(Pb)の使用量は、各メーカーによって削減努力がなされています。ただし、具体的な含有量は公表されていません。

さらに太陽電池セルはフレームやガラス、封止材などで頑丈に覆われていることも勘案すると、鉛(Pb)が流出するようなリスクは皆無といえます。仮に流出しても、含有量も少ないことから土壌や地下水の汚染、人体への悪影響を引き起こすことも皆無と言えます
なお、シリコン系太陽光パネルの主な基板材料であるシリコンウェハには、鉛(Pb)など有害物質は一切含まれていません。

Cd(カドミウム)、As(ヒ素)、Se(セレン)は化合物系太陽光パネルでごく少量が使用されている

先に紹介したシリコン系太陽光パネルの場合と異なり、化合物系太陽光パネルでは「ウェハ部分」にCd(カドミウム)、As(ヒ素)、Se(セレン)は、化合物系太陽光パネルにおいて、ごく少量が添加されています。

とはいえ、化合物系太陽光パネルもウェハ部分が頑丈に覆われているため、簡単に露出・流出するようなことはないでしょう。

また、これら物質の使用は太陽光パネルに限ったことではありません。例えばヒ素であれば、液晶用ガラス原料や木材防腐剤、農薬など様々な製品に用いられています。

さらに、そもそも化合物系太陽光パネルのシェア率は5%に満たないほどです。ただ一方で先に紹介した報道記事のように、まるで全ての太陽光パネルが化合物系のように述べられるケースが散見されるため、注意したいところです。

2030年後半の大量廃棄・不法投棄問題とは?

太陽光パネルの推計排出量は2030年後半から増加し、最大50万トン/年程度まで達する見込みです。

出典:太陽光発電設備の廃棄・リサイクルをめぐる状況及び論点について

こうした実情から、以下のような疑問や心配を抱える人も少なくありません。

  • 50万トンって実際にどれくらいの量なのか?
  • どのような処理がされた場合の見込量なのか?
  • 最終処分場は逼迫しないか?
  • 不法投棄は大丈夫なのか?

そこで以下では、パネル廃棄に対する懸念点、関連法の変遷やポイントなど、廃パネル問題に対する課題と対応策の現状と未来について解説します。

大量廃棄にどう対処するのか?

まず上記グラフで示された最大50万トン/年という数値は、太陽光パネルが全く処理されずに、そのまま埋め立て地などに送られて廃棄された場合の見込み量です。このように、もし全てが直接埋立処分された場合、2021年度の最終処分量869万トン/年に対して約5%に相当します。

つまり、リサイクルを推進しなければ、最終処分量の大幅な増加につながり、処分場の逼迫を招いてしまうのです。

こうした状況を受けて、自動車や家電と同様に太陽光パネルにおいてもリサイクルの義務化が検討されています。具体的には、2024年に閣議決定がなされており、2027年頃には施行される見込みです。

▼参考:各個別リサイクル法における再資源化の状況

出典:太陽光発電設備の廃棄・リサイクルをめぐる状況及び論点について

廃パネル問題をめぐる法制度の変遷

ここで廃パネル問題に関する法制度の変遷を、以下で簡単に紹介します。

  • 1970年代~2000年代
    日本は公害問題・大規模な不法投棄問題を経験し、世界トップレベルで厳格な廃棄物管理の法制度・運用がされた。
  • 2012年(FIT固定価格買取制度の施行時)
    再エネ導入を推進したい国の意向もあり、廃パネルの処理やリサイクルの制度設計は事実上、後回しになった。
  • 2012年~2015年頃(FIT制度施行から2~3年程)
    既存の法制度だけでは、廃パネルの大量廃棄、不法投棄の問題に対処できないことが明らかになった。

廃パネル問題に関する法制度のポイント

次に廃パネル問題に関連する3つの法制度について、規制のポイントをまとめます。

法制度管轄規制のポイント
廃棄物処理法環境省・排出事業者(発電事業者)に全ての責任
・適正処理(有害物質のコントロール)
FIT制度での規制経済産業省発電事業者(排出事業者)に撤去・廃棄の費用を確保させることで不法投棄・発電所の放置の懸念を払拭
個別リサイクル法環境省
(経済産業省)
特に全体の約60%を占めるガラスのリサイクルが進むことで、最終処分場の逼迫の懸念が払拭される

上記表について、もともとは「廃棄物処理法」による規制のみでした。ただ、廃棄物処理法のみでは大量廃棄による最終処分場の逼迫および不法投棄への懸念が残るため、経済産業省が「FIT制度での規制」に踏み切ります。

具体的には、2018年4月の撤去費用積立の義務化から始まり、2022年7月には外部積立が運用開始しており、発電事業者が自ら撤去・廃棄にかかる費用を確保できる仕組みが確立されています。(積立制度については後項目で詳しく解説します)

さらに施行に向けて現在推進中なのが廃パネルに対する「個別リサイクル法」です。同報制度をもって、廃パネルのリサイクルを義務化し、最終処分場が逼迫するリスクを低減します。先述した通り、2024年9月に閣議決定されており、2027年頃には施行予定です。

大量廃棄や不法投棄は廃棄物処理法によって規制されている

廃棄物処理法とは、廃棄物の処理・保管・運搬・処分などについて定めた法律であり、正式名称は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」です。排出事業者は本法律に従い、排出した廃棄物を適正に処理する責任を負います。

なお廃棄物とは、金銭的な価値がないもののことを指しています。さらに廃棄物は、下記の通り「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分類され、処理責任の所在が明確化されています。

上記のように産業廃棄物の処理責任(費用負担)は全て排出事業者にあり、違反した場合には法人には3億円以下の罰金などが課せられます。仮に処理業者が不法投棄をしても排出事業者の責任となるため注意しましょう。

また、廃棄物処理を委託するには、免許を持った処理業者と契約し、1つひとつの廃棄物に対してマニフェストを発行しなければなりません。その上で処理業者は、収集運搬や中間処理、最終処分、都道府県ごとに取得する必要があります。

とりわけ太陽光パネルは、ガラスやアルミ製のフレームなど複数種の素材で構成されており容易に分けることができません。そのため、「一体不可分の廃棄物」として扱われます。

▼シリコン系太陽光パネルの構成図

以上のように、大量廃棄や不法投棄は法制度によってしっかりと規制・抑制されていることが分かります。

外部積立と撤去解体費用に関する現状

先にも触れたように、2022年7月から「太陽光発電設備の廃棄等費⽤積⽴制度」がスタートしており、太陽光発電設備の廃棄や撤去に必要な費用を事前に積み立てることを義務づけられています。

▼「太陽光発電設備の廃棄等費⽤積⽴制度」による外部積立の概要

対象設備10kW以上の太陽光発電設備で、固定価格買取制度(FIT)またはフィードインプレミアム制度(FIP)の認定を受けているもの
積立方法原則として、売電収入から毎月一定額を差し引いて外部機関に積み立てる「外部積立」が求められる。これは、将来の廃棄費用を確実に確保するための仕組み
積立期間FITの調達期間終了の10年前から積立を開始。例えば、20年間のFIT期間であれば、運転開始から10年目以降に積立が始まる
積立金額積立金額は、発電量(kWh)に応じて決定する。具体的には、経済産業省が定める解体等積立基準額(kWh当たりの単価)を基に計算される。
※一般的にEPC金額の5%未満
内部積立の例外一定の条件を満たす事業者に限り、内部積立が認められる場合がある。ただし、その場合でも事前に資源エネルギー庁との相談が必要

また、こうした「外部積立」とあわせて、前述した通り2027年には「リサイクル義務化」も施行されます。

下記は、太陽光パネルが処理されるまでのフローを示した図です。これまでの「外部積立」は、解体・撤去から最終処分に至るまでの費用に充てるためのものでした。一方で「リサイクル義務化」はリサイクル可能な中間処理業者にて、主要素材のガラスをリサイクルするための費用に充てられます。

▼「外部積立」と「リサイクル義務化」のそれぞれがカバーする範囲の違い

なお、リサイクルや廃棄など実際の処理方法は、次号で詳しく解説します。

まとめ

太陽光パネルに関する「危険性」については、一部に有害物質が使用されていることは事実です。ただし、その多くはごく微量であり、パネルの構造上も外部に露出しにくい設計となっています。

また、国内で最も多く使用されているシリコン系パネル(シェア率約95%)は、一部報道で取り上げられたような化合物系パネルとは大きく異なり、実態とのギャップが存在します。

今後、大量廃棄やメンテナンス面での課題は確かに存在するものの、それらも正しい理解と管理によって十分に対応可能です。偏った情報に惑わされず、太陽光パネルの特性とリスクを適切に理解し、再生可能エネルギーとの向き合い方を冷静に考えていきましょう。

そして次回は、「太陽光パネルの廃棄やリサイクルなど実際の処理方法」について解説しますので、ご期待ください。

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